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今回の聴きどころ

第86回(2020年2月)


「英雄」交響曲初演時のプログラムから

 当団は、第84回(前々回)演奏会でベートーヴェンの交響曲第1番を、続く第85回(前回)で同第2番を演奏しました。別にベートーヴェン・ティクルスをやっているわけではないのですが、今回はそれに続く交響曲第3番「英雄」を取り上げます。その前プロとして演奏するのは、エーベルルの「交響曲変ホ長調op.33」です。この交響曲は、「英雄」が1805年4月にウィーンで公開初演されたときに、そのシリーズの演奏会のプログラムとして同じく初演された曲です。

 「英雄」は、現代ではベートーヴェンの傑作の一つに数えられますが、初演時には意外にも不評で、かえってエーベルルの方が聴衆に称賛されたと伝えられています。当時の交響曲としてはあまりにも革新的で、かつ50分以上もかかる長大な曲だったことが聴衆に受け入れ難かったのかもしれません。とはいえ、エーベルルの交響曲もけして保守的ではなく、次世代を見据えた斬新な曲なのですが...。今回はそうした因縁のある二つの交響曲を聴き比べていただきたいとプログラムを企画しました。

 アントン・エーベルル(1765~1807)は、日本ではあまり知られていませんが、オーストリアの作曲家で、モーツァルトの9歳下、ベートーヴェンの5歳上に当たります。モーツァルトに師事した弟子の一人で、交響曲を少なくとも5曲書いたと言われていますが、その中で実体が明らかな(演奏録音が存在する)のは、今回演奏する変ホ長調op.33(1803)と翌年書かれたニ短調op.34(1804)、それにモーツァルトの作品とされていたハ長調(1785)の3曲のみです。

  「英雄」とエーベルルの交響曲が同じシリーズの演奏会で初演された経緯についてはよく分かりませんが、この二つには不思議な共通点がいくつか見られます。どちらも主調が「変ホ長調」であること、第2楽章がハ短調の「葬送行進曲(風)」で、しかもよく似た動機が出てくること、第4楽章はどちらも2/4拍子で、主要主題の最初の4小節がモーツァルトの「ジュピター」交響曲のように2拍分の4つの音で始まること、などです。それが意図的なものなのか、それとも全くの偶然なのかはミステリーです。

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