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今回の聴きどころ

第80回(2017年2月)



シューマン:交響曲第4番ニ短調作品120 初稿版(1841年版)

 前回のメンデルスゾーンのイタリア交響曲の「1834年改訂版」に続く、「滅多に演奏されない別版シリーズ」第2弾です。

  この曲は、シューマンの交響曲の中では比較的よく演奏されますが、実は、他の人が編曲し直したものを含め複数の異なる「版」が存在します。最もよく演奏されるのは、シューマン自身が1851年に改訂した稿(改訂稿)を基に出版された改訂版(1851年版)で、現在世の中に出回っている演奏のほとんどはこの版を使用しています。今回我々が演奏するのは、この版ではなく、1841年にこの曲が完成した当時の「初稿」を基にブラームスと指揮者ヴュルナーの校訂により1891年に出版された初稿版(1841年版)です。

 シューマンは、1841年、第1交響曲「春」を発表した後、小さいニ短調の交響曲を作曲します。この曲は、第2交響曲として初演されますが、あまり評価が得られなかったため出版が見送られました。10年後の1851年、彼は第3交響曲を完成させた後にこの交響曲の改訂作業に取りかかり、改訂稿を完成させます。この改訂稿は1853年に初演され、その翌年第4交響曲として出版されます。これが現在一般に演奏されている改訂版(1851年版)です。

 改訂版と初稿版では、大きな違いがありますが、特に管弦楽法(オーケストレーション)にその違いが顕著です。シューマンの管弦楽曲では、しばしば弦楽器と管楽器をユニゾンで重ねる手法が用いられています。これが彼の管弦楽法の最大の特徴であり、カラーなのですが、時に管弦楽法の稚拙さを指摘される要因にもなっています。改訂版では、この手法が用いられて、よく言えば重厚な、悪く言えば暑苦しい響きがしますが、初稿版では、その「シューマンらしさ」はまだ影を潜めており、どちらかというとすっきりした簡素な響きがします。それだけに初稿版の方が彼独特の内声部の複雑な動きが効果的に表れているように思われます。かの盟友ブラームスも初稿の方が優れていると考えていたようで、ヴュルナーとともに、初稿の校訂・出版に一役買っています。彼らが校訂して作成した稿は、初稿を基に一部に改訂稿の要素を取り入れたとされるもので、ヴュルナーの指揮で1889年に初演され、1891年に初稿版(1841年版)として出版に至ります。

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